北海道のオホーツク海にほど近い網走市に、約1300年前にこの地で暮らしていた人々の生活や文化を伝える博物館があります。
その名は「モヨロ貝塚館」。
モヨロ貝塚館は、網走市立郷土博物館の分館です。2013年にリニューアルされた現在の建物は、館内もきれいで、展示をゆっくり見学することができました。
ここで紹介されているのは、北方の地域から北海道のオホーツク海沿岸に広がった「オホーツク文化」です。
オホーツク文化の人々は、海に囲まれた環境で独自の暮らしを営み、特徴的な土器や動物をかたどった製品、独特な埋葬方法などを残しました。
モヨロ貝塚は、その文化を知るうえで重要な遺跡のひとつです。
この遺跡を発見したのは、独学で考古学を学んでいた米村喜男衛(よねむら・きおえ)。
友達と「網走に来た次の日に貝塚を見つけるって、そんなことある!?」と笑いながら話していたのですが、同時に「人生って何が起こるかわからないなあ」と妙に感心してしまいました。
今回の見学で特に印象に残ったのは、クマをまつる祭壇のような住居跡、独特な文様の土器、写実的な牙製女性像、そして墓域展示室です。
縄文時代の遺跡や土器を見学することが好きな私にとっても、これまで見てきた展示とはまた違う魅力を感じる場所でした。
モヨロ貝塚館で見学するオホーツク文化

モヨロ貝塚館は、網走川の河口に近い場所にあります。館内では、隣接するモヨロ貝塚から出土した資料などを通して、オホーツク文化の人々の暮らしを知ることができます。
展示は、住居・墓・貝塚などをテーマに構成されています。
住居の様子や動物に関わる信仰、土器の特徴、埋葬方法など、ひとつひとつ見ていくと、当時の人々がどのような環境で暮らしていたのか、少しずつ想像できるようになります。
それでは、実際に見学して印象に残った展示を紹介していきます。

モヨロ貝塚の特徴① クマをまつる祭壇
館内には、発掘調査で明らかになった住居の様子を再現した展示があります。
展示室はかなり暗め。暗い場所が苦手な私は、ちょっとドキドキしながら見学しました。

住居内の展示で目を引くのが、ヒグマの頭蓋骨などが並べられた場所です。
発掘調査では、ヒグマの頭蓋骨が丁寧に積み上げられていた場所や、クマの骨がまとめて置かれていた場所などが確認されています。頭蓋骨ではなく、大腿骨が集められていた場所もあったそうです。
こうした発見から、オホーツク文化の人々にとって、クマは単なる狩りの対象ではなく、信仰や儀礼とも深く関わる存在だったと考えられています。
クマの頭蓋骨が並ぶ再現展示は、かなり迫力があります。

一方で、クマの足形文様が付けられた土器には、どこかかわいらしさも感じました。


クマの足跡を思わせる文様が、土器の表面に付けられています。
祭壇のような展示の迫力と、土器に見られるかわいらしい文様。同じ動物に関わる展示でも、見え方が違うのが面白いですね。
さらに、祭壇のそばからは、クマやシャチなどの動物をかたどった土製品も発見されています。
動物を表現したものが住居跡から見つかっていることも、オホーツク文化の信仰や儀礼を考えるうえで興味深い点です。
オホーツク文化の人々は何を食べていた?
住居の再現展示の近くには、当時の食生活をイメージできる展示もありました。

土器を使った料理の再現展示を見ると、「オホーツク文化の人たち、かなりグルメだったのでは?」と思ってしまうほど。
もちろん、展示の再現だけで当時の食生活のすべてがわかるわけではありません。それでも、オホーツク海に面した土地で暮らしていた人々が、海の資源や周囲の自然を利用して生活していたことを想像するきっかけになりました。
縄文時代の展示でも食文化の紹介はよく見かけますが、オホーツク文化の展示からは、また違った自然環境のもとで営まれた暮らしが伝わってきます。
同じ北海道の古代の文化でも、地域や時代によって生活の様子が違っていたのだと感じました。
モヨロ貝塚の特徴② 土器の文様が面白い!オホーツク式土器
展示されていた土器も、とても印象的でした。
私自身、これまで見てきた縄文土器とは違う文様に興味津々。「これがオホーツク文化独特の土器なのかな?」と、思わずじっくり見入ってしまいました。
もちろん、ここで紹介されている装飾がモヨロ貝塚だけに見られるわけではありません。オホーツク文化の土器には、縄文土器とはまた異なる造形的な特徴があります。

特に目を引いたのが、「貼付文(ちょうふもん)」と呼ばれる装飾です。
貼付文は、粘土を土器の表面に貼り付けて文様を作る技法です。土器の表面を押したり刻んだりして模様を付ける方法とは違い、粘土を付け足すことで立体的な装飾を生み出します。

よく見ると、貼り付けられた粘土が細かく、丁寧に形作られています。

この立体的な文様が、私にはなんともかわいらしく見えました。

クリスマスの飾り付けのようにも見えてしまうのは、現代人だからでしょうか。
土器の縁にも装飾が施されていて、細部まで見ていくと、作り手が形や文様を工夫していたことが伝わってくるようです。

縄文土器の力強い文様や、地域ごとに異なる形を見てきた私にとって、オホーツク式土器の立体的な装飾は新鮮でした。

こちらは刻文のある土器です。


ひとくちに古代の土器といっても、地域によって形や装飾にはさまざまな違いがあります。
土器を見比べることは、当時の人々の暮らしや文化の違いを知る手がかりにもなるのですね。
モヨロ貝塚の特徴③ 写実的な牙製女性像
展示の最後のほうで、特に印象に残ったのが「牙製女性像」です。

ぱっと見たときには土偶のようにも見えましたが、これは土で作られたものではなく、牙を素材とした女性像です。
まず驚いたのは、その写実的な表現でした。
特に手の形がとてもリアルで、「本当に人の手みたい」と、思わず見入ってしまいました。

顔や身体の表現も繊細で、個人的には、どこか西洋彫刻やローマ彫刻のような雰囲気も感じました。
もちろん、これはあくまで私個人の印象です。それでも、普段見ている縄文土器や土偶とは異なる造形に出会うと、文化によって表現の仕方がこんなにも違うのかと驚かされます。

この女性像は、ゆっくりと回転しながら展示されています。正面だけでなく、横や後ろからも形を観察できるのが印象的でした。
オホーツク文化というと、私はこれまで土器やクマに関わる信仰のイメージが強かったのですが、この女性像を見て、造形表現の面でも奥深い文化だったのだと感じました。
モヨロ貝塚の特徴④ 墓域展示室で見る独特な埋葬方法
モヨロ貝塚館で、もうひとつ印象に残ったのが墓域展示室です。
ここでは、発掘調査で確認された墓の様子を間近に見ることができます。
オホーツク文化の墓では、仰向けに寝かせた遺体の腕や脚を曲げた姿勢で埋葬する例が見られます。このような埋葬姿勢は「仰臥屈葬(ぎょうがくっそう)」と呼ばれます。

展示では、遺体の周囲に石が配置され、土器を伴う墓の様子が再現されています。

遺体の頭部に土器をかぶせる埋葬方法も、モヨロ貝塚で見られる特徴のひとつです。

また、木を用いた構造を持つ墓も確認されています。展示では、墓に伴う土器なども観察できました。
土器の底に穴が開いているものもあり、どうしてこのような形になっているのだろうと興味を引かれました。穴が開けられた理由については、出土状況や個々の資料を踏まえて考える必要がありますが、墓に伴う土器の形にも注目したくなります。

墓域展示室の床は砂地になっていて、発掘現場にいるような雰囲気があります。

少し離れて全体を眺めると、墓が点々と並んでいる様子がわかります。

墓は、亡くなった人を葬る場所であると同時に、当時の人々の死生観や儀礼を考える手がかりにもなります。
遺体の姿勢や土器、石の配置など、ひとつひとつの特徴を見ていくと、オホーツク文化の人々がどのように死者を葬っていたのか、想像が広がりました。
モヨロ貝塚館で見つけた動物の装身具や土製品
館内には、動物をモチーフにした装身具や道具、土製品なども展示されていました。

こちらはクマをかたどったもの。

クマに関わる展示を見たあとだと、こうした小さな造形からも、動物が人々の暮らしや信仰と深く関わっていたことを考えさせられます。

よく見ると、動物たちの表情にもそれぞれ違いがあります。


どれも表情が穏やかで、思わずじっくり見てしまいました。
土器だけでなく、動物を表現した小さな製品にも目を向けると、オホーツク文化の造形の幅広さが感じられます。
モヨロ貝塚館の見学後は、隣接するモヨロ貝塚へ
館内の展示を見学したあとは、隣接するモヨロ貝塚も見て回りました。

館内で出土品や住居の再現展示を見たあとに、実際の遺跡を歩くと、展示で知ったことを現地の風景と結び付けて考えられます。

屋外には、住居跡などを見学できる場所もあります。

館内で見た暮らしの様子を思い返しながら遺跡を眺めると、約1300年前、この場所で生活していた人々の姿を想像したくなりました。
オホーツク海に面した網走の地で、独自の文化を育んでいた人々。その暮らしの痕跡が、土器や動物をかたどった製品、墓などを通して今に伝わっています。
モヨロ貝塚館を見学して
今回、モヨロ貝塚館を見学して、オホーツク文化には、縄文時代の遺跡や土器とはまた違った魅力があることを知りました。
クマに関わる信仰を思わせる展示、立体的な貼付文が施された土器、驚くほど写実的な牙製女性像、そして独特な埋葬方法。
どれも印象深く、「もっといろいろなオホーツク文化の出土品を見てみたい」という気持ちが強くなりました。
普段、縄文時代の土器や遺跡を中心に見学している私にとって、異なる文化の展示をじっくり見ることは、新しい発見の連続でした。
同じ北海道の古代の文化でも、暮らしていた環境や文化によって、土器の形や動物との関わり、埋葬方法などに違いがあります。
そうした違いを実際の展示を通して感じられるのが、博物館を訪れる楽しみのひとつだと思います。
網走を訪れた際には、ぜひモヨロ貝塚館で、北の海に生きた人々の暮らしと文化に触れてみてください。