人類の歴史の中でも最も古い時代のひとつである旧石器時代。
この時代、人々は石を加工してさまざまな道具を作り、狩猟や生活に利用していました。
アフリカで誕生した人類の祖先が、身近にある石を道具として使い始めたことが、石器づくりの始まりとされています。その後、原人、旧人、新人へと人類が進化していく中で、石器づくりの技術も発達していきました。
槍先やナイフ、皮を加工するための道具、ドリルなど、用途に合わせてさまざまな石器が作られるようになり、石器の材料となる石も、目的に応じて選ばれていたと考えられています。
その中でも、特に重要な石材のひとつが「黒曜石」です。
黒曜石は、火山の噴出物などが急速に冷えてできた天然のガラスで、割ると鋭い刃先ができるという特徴があります。そのため、旧石器時代の人々にとって、石器を作るための優れた材料でした。
日本にも黒曜石の原産地は数多くありますが、北海道では白滝、置戸、十勝三股、余市町赤井川などがよく知られています。
その中でも、北海道遠軽町の白滝地域には、黒曜石を使った石器づくりの跡が数多く残されています。それが「白滝遺跡群」です。
白滝遺跡群からは、膨大な数の石器や石器づくりの際に生じた石のかけらなどが見つかっており、当時の人々がどのように黒曜石を加工し、石器を作っていたのかを知ることができる貴重な資料となっています。
そして、遠軽町が所蔵する「北海道白滝遺跡群出土品」は、令和5年(2023年)に国宝に指定されました。
今回は、実際に遠軽町埋蔵文化財センターを訪れ、白滝遺跡群から出土した石器や、そこから分かる旧石器時代の人々の石器づくりについて、初心者にも分かりやすく紹介していきます。
遠軽町埋蔵文化財センター
JR石北本線「白滝駅」から徒歩15分。都市間高速バス「白滝停留所」から徒歩5分。車で旭川紋別自動車道「白滝I.C.より約3分。遠軽町の遺跡から出土した埋蔵の収集・展示・活用を行う施設です。常設展示の「1.大地に遺された記憶」で現代から擦文時代、続縄文時代、縄文時代、旧石器時代へと大地を掘り進めるように時代をさかのぼり、各時代の代表的な遺跡と遺物を紹介しています。「2.現れた大遺跡群」「3.白滝での石器づくり」「4.旧石器時代のくらし」で。白滝遺跡群と黒曜石製石器について展示・解説があります。






北海道・遠軽町にある「白滝遺跡群」
冬の難所「北見峠」を避けて、旭川から上川、白滝、遠軽を通ってオホーツク海に抜ける高規格道路が、旧白滝村市街地の南に連なる河岸段丘のへりに沿って建設されることが決まりました。白滝村には100ヶ所以上の遺跡が知られていましたが、その大半はこの湧別川流域の河岸段丘に立地します。また新たな遺跡の発見も予想されるなか、1995年以降、北海道埋蔵文化財センターの手で発掘が続けられました。
上流から下流へ奥白滝11遺跡、服部台2遺跡、奥白滝1遺跡、上白滝八遺跡、上白滝二遺跡、上白滝五遺跡など、調査面積の総計八マン平方メートル、出土した石器・剝片など総計748万点、総重量10トンに達するといいます。
白滝遺跡群の時代・黒曜石の関係
人類が、黒曜石原産地を目指して白滝の地に足を踏み入れたことを示す先史時代の遺跡がたくさん残されています。これまでに100ヶ所以上の所在が明らかにされています。原始林におおわれてその所在すら知られなくなったものはそれ以上にあると思います。遺跡の集中度、出土遺物の量、いずれもが世界に類をみないものであり、さらなる鮮明が期待されています。旧石器時代の人びとは、赤石山に登り、見晴らしの良い頂上部で石器を作っていました。長期滞在し、本格的に作業をしていたと考えられる証拠はありませんが、黒曜石を利用して石器を作っていたことは疑いありません。
赤石山山頂の採掘跡
赤石山山頂の採掘跡周辺で、石器が収集されています。
東アトリエの北に位置する遺物採集地点を「山頂赤石1遺跡」、北西方に位置する採集地点を「山頂赤石2地点」と呼んでいます。山頂赤石1遺跡から採集された石器には、大型で、形のいびつな両面加工石器、半分に截ち切られた木の葉形の両面加工石器、礫表を残す甲板面から側縁の調整剥離で仕上げられた船形石器、端部に小さな刃部が作られた石刃製の掻器、両面縁の一部に二次加工さが加えられた削器、平坦打面で、細かな頭部調整痕を残す石刃、縦長剝片などが含まれます。両面加工石器や、船形石器は、細石刃を作るための細石刃核ブランク(母型・祖形)とみられます。
山頂赤石2遺跡からは、入念な側縁の調整剥離によって仕上げられた船形石器、大型の不安定形剥離を素材に用いたおよそ楔形で、平たい甲板面からおこなわれた細石刃剥離の痕跡を一端に残す細石刃核、両面加工石器の破損品、先端、および左右側縁に二次加工が施された石刃・剝片製の削器などが採集されています。



有茎尖頭器:柄をつけやすくするための突起(茎)がある槍先で、普通は7~8cmほどの大きさです。

石刃とは、削器や掻器、彫器、石錐、尖頭器など、いろいろな道具の素材となるものです。石刃技法は、定型的な石刃を連続的に剥がしとる画期的な技法です。石核に、パンチをあてがい、ハンマーを正確に振り下ろすことで量産されたと思われます。
石器づくりの跡が分かる「接合資料」(遺跡群の編年)
石器の「接合資料」とは?
旧石器時代の石器を作るときには、石を打ち割って形を整えていきます。そのときにできた石のかけら(剥片)と、もとの石を組み合わせると、まるでパズルのようにつながることがあります。
このように、同じ石から作られた石器や石のかけらをつなぎ合わせたものを「接合資料」といいます。
接合資料を調べることで、当時の人々がどのように石を割り、石器を作っていたのかを知る手がかりになります。
白滝遺跡群では、その接合資料と石器により、旧石器時代のどの時期に作られていたかがわかります。
小型舟底形遺跡群
白滝遺跡群の後期旧石器時代前半を代表する「小型舟底形石器石器群」の指標となる遺物です。






広郷型尖頭石器群
広郷型尖頭石器群とは、後期旧石器時代前半(約2万3000年前頃)に特徴的なナイフ形石器や細石刃などの石器群です。







小型剝片石器群
小型剝片石器群とは、白滝遺跡群の中で最も古い時期に位置づけられる、およそ3万年前を中心とする後・晩期旧石器時代初頭の石器群です。








有舌尖頭器石器群
日本最大級の黒曜石の産地(赤石山)の麓に広がる、約3万年前から1万5千年前(後期旧石器時代)の日本を代表する大規模な石器製作遺跡群です。
有舌尖頭器(ゆうぜつせんとうき)とは、底部に「舌(ぜつ)」と呼ばれる突き出し部(柄に装着するための段差や突起)を持つ、木の葉状の精巧な石器です。





細石刃石器群
ここからは、細石刃という細長く小さな刃状の石器を紹介します。
細石刃(さいせきじん)とは、石から剥ぎ取った細長く小さな刃状の石器です。
旧石器時代の人々は、細石刃を木や骨などの柄に複数取り付け、槍やナイフなどの道具の刃として利用したと考えられています。
白滝遺跡群では、良質な黒曜石を使った細石刃や、それを作るための細石刃核が数多く見つかっており、当時の石器づくりの技術を知る重要な資料となっています。
細石刃石器群(紅葉山型)
細石刃石器群(紅葉山型)とは、北海道夕張市の紅葉山遺跡を標式遺跡(北海道夕張市の紅葉山遺跡を基準として名付けられた石器群)とする、後期旧石器時代後半の石器群です。細石刃と呼ばれる小さな石の刃を作るための「細石刃核」が特徴で、当時の石器製作技術を知るうえで重要な資料となっています。







細石刃石器群(蘭越型・広郷型)
「蘭越型」とは、北海道で見られる多様な細石刃製作技法(ほかに峠下型、美利河型、広郷型など)の一つで、蘭越町周辺などで見つかったものに類似する独特の細石刃核(素材となる石の核)や剥離技術のグループを指します。

広郷型細石刃核は、道東地域を中心に広く分布するタイプです。置戸産などの上質な黒曜石の大形石刃などを素材として活用し、独自の技法で作られています。


細石刃石器群(札滑型)
白滝遺跡群で見られる「札滑型(さっこつがた)細石刃核」は、「湧別技法(ゆうべつぎほう)」によって細石刃を作るための代表的な型式のひとつです。
湧別技法によって作られる細石刃核は、主に「白滝型」と「札滑型」に分けられます。
こうした細石刃を作る技術は北海道だけにとどまらず、本州にも伝わり、中国地方などでもその分布や影響が確認されています。





細石刃石器群(峠下型)
白滝遺跡群の「細石刃石器群(峠下型)」は、北海道遠軽町(旧白滝村)の赤石山周辺に分布する、後期旧石器時代前半期(約2万~3万年前)の代表的な石器群のひとつです。
その特徴のひとつが、「峠下型細石刃核」です。これは、細石刃と呼ばれる小さく細長い刃を作るための石核で、そこから細石刃を効率よく剥ぎ取ることができるように加工されています。






接合資料は、製作者の意図や当時の石器製作技術の特徴を教えてくれます。
さまざまな接合資料を見ていると、大きな塊の段階には石刃を作り、小さくなると細石刃を作っているという、石刃技法と細石刃技法(紅葉山型・細石刃核)とが一連のものであるということを証明しています。
これまでの常識を覆す、貴重な資料です。
白滝遺跡群を代表する「湧別技法」とは?
細石刃とは?
細石刃(さいせきじん)とは、長さ3~5cm、幅5mmほどの、短冊形をした小さな石器です。
表面には、側面と平行する1~3本ほどの稜線があり、形は石刃をそのまま小さくしたようにも見えます。ただし、すべてが同じ大きさというわけではありません。たとえば幌加沢遺跡遠間地点では、長さ8cm、幅1cmを超える大きな細石刃も見つかっており、「小石刃」と呼んでもよいほどの大きさです。
この細石刃を作るために使われたのが、細石刃核(さいせきじんかく)です。細石刃核から、細長い細石刃を繰り返し剥ぎ取っていきます。
細石刃の作り方や、残された細石刃核の形には、時代や地域によって違いがあります。


北海道に多い「舟底形・楔形」の細石刃核
北海道では、さまざまなタイプの細石刃核が見つかっています。
その中でも多く見られるのが、横から見るとボートのような形をした「船形(舟底形)細石刃核」です。また、細石刃を剥ぎ取る作業面を正面から見るとクサビ形に見えることから、「楔形細石刃核」**と呼ばれるものもあります。
幌加沢遺跡遠間地点で見つかっている細石刃核の多くは、北海道を代表する石器製作技術のひとつである「湧別技法」によって作られた「札滑型」細石刃核です。
細石刃を作る「湧別技法」
「湧別技法」という名前は、北海道の湧別川にちなみ、考古学者の芹沢長介氏と吉崎昌一氏によって名付けられました。この技法は、北海道の旧石器時代を代表する石器製作技術として知られています。
湧別技法では、まず両面を加工した大きな槍先形の石器(ブランク・母型)を用意します。
そこから石を縦方向に割り、細石刃を剥ぎ取るために適した平らな打面ができるまで、石の形を整えていきます。この過程で剥がされる石片には、ファースト・スポール、セカンド・スポールなどがあります。
こうして細石刃を量産するための舟形の細石刃核が作られます。
そして最後に、押圧剥離という方法を使い、細石刃核から細石刃を連続して剥ぎ取っていきます。
このように、細石刃を作り始めるまでには多くの工程と手間が必要です。しかし、一度細石刃を剥ぎ取り始めると、同じ形の細石刃を次々と作り出すことができます。
限られた石材を無駄なく利用し、同じような形の小さな刃を計画的に作り出す――。湧別技法は、旧石器時代の人々の高度な石器製作技術と計画性を知ることができる、興味深い技術なのです。

国宝「北海道白滝遺跡群出土品」
白滝遺跡群から出土した石器は国宝に
白滝遺跡群から出土した石器などの資料は、2023年(令和5年)6月27日に「北海道白滝遺跡群出土品」として国宝に指定されました。
国宝に指定されたのは、服部台2、奥白滝1、上白滝2、上白滝5、上白滝7、上白滝8、旧白滝15の7つの遺跡から出土した1,965点です。その内訳は、石器1,514点と、石器や石のかけらをつなぎ合わせて石器製作の工程を知ることができる接合資料451組となっています。
これらの資料には、細石刃や尖頭器をはじめ、さまざまな種類の石器が含まれています。また、石器を作る際に生じた剥片や石核なども数多く残されており、旧石器時代の人々がどのように石器を作っていたのかを知ることができます。
白滝遺跡群では、23か所の遺跡から約669万点、総重量約12トンもの遺物が出土しています。こうした豊富な資料から、当時の人々の石器製作技術や、その変化を詳しく知ることができる点が高く評価されました。文化庁は、白滝遺跡群の出土品について、日本の旧石器時代遺跡出土品の中でも内容・質量が群を抜き、世界的に見ても稀有な資料としています。
つまり、白滝遺跡群の国宝は、「貴重な石器が1,965点ある」というだけではありません。
石器そのものに加えて、石器を作る途中にできた破片や接合資料まで含まれていることで、約1万5,000~3万年前の人々が、黒曜石をどのように加工し、石器を作っていたのかを具体的に知ることができるのです。
現在、この国宝「北海道白滝遺跡群出土品」は、遠軽町が所有し、遠軽町埋蔵文化財センターで保管されています。







大型尖頭器石器群
大型尖頭器石器群とは?
白滝遺跡群では、旧石器時代のものとしては非常に大きな尖頭器(せんとうき)が見つかっています。
尖頭器とは、先端を尖らせた石器で、槍などの先端に取り付けて使われたと考えられています。
白滝遺跡群の大型尖頭器の中には、全長36.3cmにもなる非常に大きなものがあり、木葉形をした美しい尖頭器も数多く見つかっています。
また、尖頭器そのものだけではなく、石器を作る途中で生じた大量の剥片や石核も残されています。これらをつなぎ合わせた「接合資料」も多く、当時の人々がどのように石を割り、尖頭器を作っていたのかを詳しく知ることができます。
特に興味深いのは、これほど大きく、形の整った尖頭器を作るためには、石をどのように割るのかをあらかじめ考えながら加工する必要があったと考えられることです。
白滝遺跡群の大型尖頭器は、単に「大きな石器」というだけではありません。旧石器時代の人々が持っていた石器製作の技術や、石材を加工する計画性を知ることができる重要な資料なのです。







まとめ
今回、遠軽町埋蔵文化財センターを訪れて、白滝遺跡群についてじっくり見てきました。
白滝遺跡群について調べるまでは、私自身も「黒曜石で作られた石器がたくさん見つかっている遺跡」というくらいのイメージでした。
ところが、実際に展示されている石器や接合資料を見てみると、そこから分かることの多さに驚かされます。
細石刃や細石刃核、尖頭器など、さまざまな石器を見るだけでなく、石器を作る途中で生まれた剥片まで残され、それらをつなぎ合わせることで、当時の人々がどのように石器を作っていたのかまで分かってきます。
特に、湧別技法によって作られた細石刃核や、全長36.3cmにもなる大型尖頭器などを実際に見ると、数万年前の人々が黒曜石という限られた石材を使い、どのように道具を作っていたのかを、少し身近に感じることができました。
そして、これらの貴重な資料の一部が、現在は「北海道白滝遺跡群出土品」として国宝に指定されていることを知ると、白滝遺跡群がいかに重要な遺跡群なのか、あらためて実感します。
白滝遺跡群は、ただ「古い石器がたくさん見つかった場所」ではありません。
そこに残された石器や接合資料を一つひとつ見ていくことで、数万年前の人々が黒曜石を求め、石器を作り、道具を使って暮らしていた姿を想像することができる場所なのだと思います。
北海道を訪れる機会があれば、ぜひ遠軽町埋蔵文化財センターにも足を運んでみてください。
実物の石器を目の前にすると、教科書や写真だけでは分からない、白滝遺跡群の面白さを感じることができると思います。


遠軽町埋蔵文化財センター基本情報
所在地: 〒099-0111 北海道紋別郡遠軽町白滝138-1(白滝総合支所2階)
開館時間: 9:00〜17:00(入館は16:30まで
- 休館日::毎週火曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始
- ※時期により変動あり(5月〜10月は休館日なし、11月〜翌4月は土・日曜日休館などの変則的な情報もありますので現地へご確認ください)
- アクセス:(車で行くほうが良いかもしれません)
- JR石北本線「白滝駅」から徒歩約15分
- 都市間高速バス「白滝」停留所から徒歩約5分
入館料(常設展示室)
- 一般(大人): 320円(団体 260円 ※10名以上)
- 高校生以下: 160円(団体 130円)
- 未就学児: 無料
- 年間パスポート: 一般 1,050円 / 高校生以下 530円
- ※1階にある「白滝ジオパーク交流センター」は入館無料です。
体験学習::石器や、まが玉づくりなどの体験学習プログラムも実施されています。
※詳しくは遠軽町のサイトへ。


